叱らないでも いいですか

「叱らないで、子どもに伝える・通じ合う」 小学校教師、『新間草海』の本音トークです。

教師はポケモン・デジモンについて知っておくべきか




結論を言うと、知っておくにこしたことない。
どちらかというと、知っておくべき。

これは、対象児童によって、内容が変わる。
低学年ならポケモン仮面ライダーオーズ
また、「なつかしい話」としてとりあげた場合のトーマスもあり得る。
(おおくの1,2年生にとって、トーマスは幼児期のなつかしい思い出であるため)

(株)バンダイの調べでは、アンパンマンプリキュア、ワンピース、ドラえもんが今年の上位らしい。http://www.bandai.co.jp/kodomo/question105.htmlバンダイ | バンダイこどもアンケート



私自身は、これまで、こういった話題は避けてきた気がする。
なぜなら、こうした話題で子どもたちと話すのは、
なんだか、子どもにあまりにも調子を合わせ過ぎている、という気がしたからだ。
つまり、子どもになんだか媚びてしまっているように思ったのだ。


ところが、このことについて、身近な勤務校の先生とちょっとしたおしゃべりになり、いろいろと話すうちに、

こうした話題も、するべきだ

というふうに思うようになった。


以下、先輩との会話。



「わざわざ大人が、そんな子どもしか知らないような話題をしていたら、迎合していることになりませんか」

「ゲーゴーみたい?それは決めつけ。内容がトーマスでも・・・、態度は迎合しちゃだめ、ね」

「と言いますと・・・」

「つまり、内容と態度は区別してしゃべる、ということ。態度は堂々と、きちんと話をする。ニヤニヤして、おべっかつかうみたいに、ご機嫌うかがう~、というような気持ちでしゃべっちゃダメだね。それは最低」

「ですよね。でも、大の大人が、トーマスやポケモンの話をしていたら、なんだかヘンだと思うのですが」

「変じゃないでしょう。だって、ARAMA先生だって、お子さんがいらっしゃるのだし。トーマスっていったら、たいへんな文学ですよ。高尚な物語の世界について話し合うのだからね。つまり、そういう態度をとる、ということ。ニヤニヤしてたり、下卑た薄笑いをしてしゃべっていたら、最悪だからね」

ポケモンが進化した、という話も、ニヤニヤしないでできるかなあ」

「だから、内容ではなくて、態度が問題なのよね」

「ま、それはいいですが、なんでわざわざそんな話をする必要があるのかというと・・・」

「意味のないくだらない話をすることで、距離感の縮まる子がいるからだね。つまり問題児よ。教師がほめる、叱る、しかしたことのない子。そうでない会話をする関係がある、ということが大事なの」

「そう言えば、問題児は叱ってばっかりだしなあ」

「問題児だから叱るし、逆にほめほめ作戦で、ほめることだってあるでしょう。そのどちらか、両極端になりやすいのよね」

「なるほど、つまり、当たり障りのない、ふつうの会話になりにくい、と」

「ふだん給食の後とか、ホッとしたときの昼休みの時間とか、クラスの普通の子たちが会話しにくるでしょう。けっこうくだらない会話を。家でどうしたとか、お兄ちゃんが、お母さんが、とか・・・。そうした会話を、問題児とはしゃべっていないのよ。ふだんから叱る対象だから、向こうも距離をとってくるし。」

「そうですね。お互いに、ちょっと用心しているかもしれません」

「そうそう。その、用心、というオーラが、なんだか妙に伝わるんだよねえ」

先輩はここまで話すと、ゆっくりと開いていた帳面を閉じた。
窓の外は、次第に薄い紫色の空気となり、太陽が山の向こうに落ちかけていることを示していた。夕暮れだった。
落ち着いた先輩の声が、人数の少なくなった職員室に、しみとおるように響いていた。

わたしは、どうにもこの話の最後が聞きたくなって、続けて尋ねてみた。

用心の必要ない会話を、した方がいい、ということでしょうか」

まさにマスターとよぶにふさわしい貫禄をひめつつ、先輩がこう答えた。

「そう。緊張のない会話をすること。だから、内容はなんだっていいの。ポケモンでなくたっていいし、家族のことや旅行のこと、おしゃべり気分ならなんだって・・・。でも、家族のことでも教師は何かの参考にしようと身構えて話すことがあるし、聞こうとして身を乗り出すこともある。そういう緊張感が少しでも出てきたら、自分で、「あ、モードがチェンジしたな」と思うことが大事ね。意味のない、緊張のない会話ゾーンから、出てしまった、と」

「そうか。意味のない、ということに意味があるのですね」

私がそう言うと、先輩と私は顔を見合わせて、ふふふ、と笑った。

ポケモンにくわしくなって、子どもの人気を得なさい、ということではないの。先生すごい!ポケモン知ってるの!と言ってもらいたいから、ではないのね。それが目的だとしたら、ずいぶん緊張感のある会話になってしまうでしょう。教師の側に、目的がはっきりとある会話になってしまう。そうでなくて・・・」

「教師の側に、何の目的もない、得るもののない会話をしなさい、ということ」

わたしが先輩の言い終わらないうちに、言葉の終わりを引き取って話すと、先輩は私の顔を見て、にっこりとした。

「そういうこと」

職員室に、おだやかな空気が満ちてきたような気がした。




(きょうは、ベストセラー「チーズは、どこへ消えた」でおなじみの、スペンサー・ジョンソン風に書いてみました。雰囲気、出てましたかね?{ネズミ})