なんでそんなことするんだ!と叱らない
朝、雪が降り、廊下に雪だるまをころがしてもってきたJくん。
「なんでこんなもの、もってきたんだ!」
と怒声が廊下に響きました。
高学年の先生です。
それはそうですね、こんなもの、廊下にもってきてもらったら困りますよ。ぬれるし、だれかが掃除しないといけないし、他の子がすべってころぶかもしれないし・・・。
でも、相手はJくんです。
アスペルガーの診断を受けています。
さあ、どうなるか。
「なんでだ!!!」
と叱る。すると、
「だって、ぼくがつくったから」
ぼくがつくったら、なんで廊下に持ってくることになるのか、そのあたりの論理は、なんだか飛躍している感がありますね。
そこで、担任の先生が、さらに激怒します。
「なんでお前がつくったら、もってくることになるんだ!ここは廊下だぞ!そんなもの持ってくるな!」
たまたま朝の出勤時、職員室までの通路でしたので、通りすがりに、
「これは、混乱するなあ」と思いながら聞いていました。
「なんでだ!?」
と聞くこと自体から、すでに迷路に迷い込んでいるようです。正しい対応は、どのようにしたらいいのでしょう。
Jくんは、なんでだ?と聞かれたので、自分なりの理由をがんばって言ったのに、そのあとで、さらに激怒されて、もう途方もなく混乱しています。顔全体が暗くなり、目つきがあやしくなり、どうしていいか、わからないからパニックになるのを精いっぱい抑えている。
さて、同じような場面で、同じ日に起きたこと。
これは、ベテランの、特別支援の先生の姿です。
これも、偶然、廊下で見かけました。
さすが、特別支援の先生ですね。
特別支援の先生は、叱らないのです。
それで、子どもは、先生に信頼感を持つし、言うことを聞くようになっていくのです。自分を理解してくれる先生だ、と思うから。
さて、年配のO先生です。
女性の、なんだかすてきな田舎の母ちゃん、という感じの先生。
廊下に現れたのは、1年生の、ADHDの子です。
高学年のJくんと同じように、雪の塊を廊下に持ち込み、ツルーッとすべらせて持ってこよう、というつもりのようでした。
いい笑顔で、わらいながらすべらせています。
1年生の他の男子も何人か、それを見て楽しそうにしています。
女の子たちの中には、先生に叱られるのではないか、と不安げに見守っている子もいました
「あれれれ?雪のかたまりかな。雪がすべってきたぞー」
にこにこしながら、1年生に話しかけて行きます。
それから、
「いやあ、これ、つるつるすべって、ぬれちゃったなあ。見て御覧。廊下がべたべたにぬれてしまったぞー。」
1年生の子が、うしろを向きました。顔はまだ笑っていました。
たぶん、ぬれてしまったことがどうして話題になるのか、分かっていません。
「これは、だれか、ここですべるかもしれないな。すってーん!!って、○○先生がころんで頭売っちゃうかもしれないよー。心配だなあ・・・」
○○先生、という担任の先生の名前が出たせいか、ちょっと、あれ、という表情になってきました。
「ねえ、□□くん!どうしたら、この廊下、べたべたにぬらさないようにできた?」
ここで、1年生の□□くん、完全に足が止まり、うしろを向いて、考えていました。顔も、もう、笑っていません。なにか、状況をかえなければいけないんだ、ということが、理解できているようです。
「□□くん。どうしたら、廊下をぬらさないで来れたのかなあ」
すると、すぐ脇にいた女の子が、
「雪を、バケツに入れる」
と言いました。
それを聞いて、□□くんも、
「バケツに入れる」
と言いました。
「おおー、そうだねえ。バケツにいれていけば、ぬらさなかったねえ。よく考えたなあ。えらいなあ。さすがだなあ。□□くんはちゃんと考えているねえ」
O先生は、叱っていない。
どうすればいいのか、□□くんに気付かせている。
そして、ほめている。
ほめながら、
「じゃあ、ここをぞうきんでふいておくと、もっとエライ。」
といって、先生が雑巾で廊下をふく姿を見せている。
楽しそうに拭きながら、目をまるくして、
「いやあ、きれいになったなあ!!」
と、□□くんの顔を見て、おどろいてみせている。
(□□くんは、ただだまってニコニコ見ているだけでしたが・・・)
わたしも手伝った。
そして、支援学級の子たちが、O先生の言うことを聞くようになる、という秘密が、わかったように思った。