靴下をはかない子 ~『大造じいさんとガン』~
.
くつ下を履かない子がいる。
笑うと白い歯が目立つ、Yくんだ。
サッカー大好き、それもイタリア・セリエAの話題をよく知っていて、得意げに説明してくれる。
今日、国語の授業中、アレッと思った。
Yくん、机の下に、はだしのつま先が見える。
足のつめまで、ぜんぶ出して、涼しそうにしている。
わたしは、『大造じいさんとガン』 椋鳩十:作を読みながら、机間巡視中。
教師も長く勤めてくると、物語を朗読しながら、同時に
子どもたちの様子を見る癖がついてくる。
「残雪というのは、一羽のガンに付けられた名前です。左右のつばさに一か所ずつ、真っ白な交じり毛をもっていたので、かりゅうどたちからそうよばれていました・・・」
この子は、上履きを、すぐに脱いでしまう。
癖なんだろうネ。
「残雪、というのは、ガンの名前だね。どうして『残雪』という名前がつけられたのでしょう?」
わたしが発問すると、彼の足の親指が、くねくね、と動いた。
まるで、
「わかんな~い」
というように。
反射神経の鋭いMさんが、
「左右の翼に一か所ずつ、真っ白な交じり毛を持っていたから、です」
と挙手して発表してくれる。
その間、彼の足の親指は、まるで別の生き物のように、
「ああ、そうかもネー」
あっちを向いたり、こっちを向いたりしながら、反応していた。
私は意地悪く、さらに突っ込んだ発問をする。
「では、どうして、『左右の翼に真っ白な交じり毛を持っていたら、残雪、という名前になるのでしょう?」
足の指は、ゲゲッ、まだ続くのかよ、という具合に緊張し、
それから、
だらん
とうなだれた。
「わからん・・・」
私はYくんに訊く。
「Yくん、どうですか?」
案の定、彼は
「えー、・・・今、考え中です」
私は授業をしながら、気になってたまらず、
「考え中のYくん、ごめん、きみ、なんで裸足でいるの?」
と興味本位の質問をする。
Yくん、天井を見ながら、
「ええー、はだしの理由は・・・・・・今、考えてます・・・」
周囲の子たちがクスクス笑う。
「先生、Yくん、4年の頃からずっと裸足です」
横から友達の解説が入った。
Yくんが振り向いて、友達に弁解し、
「え、ずっとじゃないよ」
他の子も、そうそう、といった風で、
「あ、まあ真冬は靴下履いてるか」
「うん。俺も冬は履くよ」
「そういや、Yくん、春から秋までは、裸足だよね」
女の子たちも、クスクス。
おそらく、体温が上がる体質なんだろう。
頭の温度が上がるので、血液を体の下部へ集めるために、靴下をぬぎたくなるのかな。
いや、冬だと逆に、冷えてしまって、血液が足元へ行かなくなるよな?
・・・あれれ?
このあたり、よく分かりません。どなたか教えてください。
そういえば、冬でも裸足の方が気持ちいい、という古くからの友人がいる。
彼は、真冬でもほとんど裸足でランニングするという、一風変わった人間で、おそらく無意識のうちに、裸足による刺激で全身の血のめぐりを良くしようとしているのではあるまいか。
Yくんも、幼い頃から、自分の体の声をきいて、自発的に、「はだし人生」をスタートさせたのだろう。
だれかに「教わった」ものではない、自分で、自分の心地よさを感じ取ろうとして靴下を脱いでいるのだ。
我々にとって、自分の体が要求する声を、きちんと聞いてキャッチすることは難しい。
彼のその試みを、ずっとこれからも大切に、見守ってやろうと思う。
写真は、中秋の名月。明る過ぎ!
くつ下を履かない子がいる。
笑うと白い歯が目立つ、Yくんだ。
サッカー大好き、それもイタリア・セリエAの話題をよく知っていて、得意げに説明してくれる。
今日、国語の授業中、アレッと思った。
Yくん、机の下に、はだしのつま先が見える。
足のつめまで、ぜんぶ出して、涼しそうにしている。
わたしは、『大造じいさんとガン』 椋鳩十:作を読みながら、机間巡視中。
教師も長く勤めてくると、物語を朗読しながら、同時に
子どもたちの様子を見る癖がついてくる。
「残雪というのは、一羽のガンに付けられた名前です。左右のつばさに一か所ずつ、真っ白な交じり毛をもっていたので、かりゅうどたちからそうよばれていました・・・」
この子は、上履きを、すぐに脱いでしまう。
癖なんだろうネ。
「残雪、というのは、ガンの名前だね。どうして『残雪』という名前がつけられたのでしょう?」
わたしが発問すると、彼の足の親指が、くねくね、と動いた。
まるで、
「わかんな~い」
というように。
反射神経の鋭いMさんが、
「左右の翼に一か所ずつ、真っ白な交じり毛を持っていたから、です」
と挙手して発表してくれる。
その間、彼の足の親指は、まるで別の生き物のように、
「ああ、そうかもネー」
あっちを向いたり、こっちを向いたりしながら、反応していた。
私は意地悪く、さらに突っ込んだ発問をする。
「では、どうして、『左右の翼に真っ白な交じり毛を持っていたら、残雪、という名前になるのでしょう?」
足の指は、ゲゲッ、まだ続くのかよ、という具合に緊張し、
それから、
だらん
とうなだれた。
「わからん・・・」
私はYくんに訊く。
「Yくん、どうですか?」
案の定、彼は
「えー、・・・今、考え中です」
私は授業をしながら、気になってたまらず、
「考え中のYくん、ごめん、きみ、なんで裸足でいるの?」
と興味本位の質問をする。
Yくん、天井を見ながら、
「ええー、はだしの理由は・・・・・・今、考えてます・・・」
周囲の子たちがクスクス笑う。
「先生、Yくん、4年の頃からずっと裸足です」
横から友達の解説が入った。
Yくんが振り向いて、友達に弁解し、
「え、ずっとじゃないよ」
他の子も、そうそう、といった風で、
「あ、まあ真冬は靴下履いてるか」
「うん。俺も冬は履くよ」
「そういや、Yくん、春から秋までは、裸足だよね」
女の子たちも、クスクス。
おそらく、体温が上がる体質なんだろう。
頭の温度が上がるので、血液を体の下部へ集めるために、靴下をぬぎたくなるのかな。
いや、冬だと逆に、冷えてしまって、血液が足元へ行かなくなるよな?
・・・あれれ?
このあたり、よく分かりません。どなたか教えてください。
そういえば、冬でも裸足の方が気持ちいい、という古くからの友人がいる。
彼は、真冬でもほとんど裸足でランニングするという、一風変わった人間で、おそらく無意識のうちに、裸足による刺激で全身の血のめぐりを良くしようとしているのではあるまいか。
Yくんも、幼い頃から、自分の体の声をきいて、自発的に、「はだし人生」をスタートさせたのだろう。
だれかに「教わった」ものではない、自分で、自分の心地よさを感じ取ろうとして靴下を脱いでいるのだ。
我々にとって、自分の体が要求する声を、きちんと聞いてキャッチすることは難しい。
彼のその試みを、ずっとこれからも大切に、見守ってやろうと思う。
写真は、中秋の名月。明る過ぎ!