いじめ発覚 連絡帳に本人と保護者の訴え その1
いじめがありました。
連絡帳での保護者と本人の訴えがあったのです。
その様子を。
朝、職員室に出ると、連絡帳がわたしの机上に見えた。
風邪かなと思って読むと、
「○○さんと○○さんと○○さんにいじめられています」
という訴えの文が目に飛び込んできた。
本人は、今日は休む、と。
そのあとに親御さんのボールペンの字があり、親も子も共に傷ついている、と。
すぐに学年主任と教頭に見せ、職員室の先生方にも知らせるようにした。
こういう態度は、他の先生方も見ている。
隠さない、というのがコツだ。
むしろ、力を貸してください、と頭を下げるチャンス。
あとでたっぷりとお礼を言えばいい。
お礼を言う機会があればあるほど、いい人生だ。
朝、自習にした。
教室には行かず、職員室前を通りかかったクラスの子に、朝の自習内容を告げた。
すぐにお母さんへ電話。
動揺するような声。
「こんなにすぐ電話くださるとは・・・」
という感じ。
まだ、登校時間中だ。
これからすぐ、うかがってお話を聞かせてください、と頼み、車を走らせた。
自宅へ着くと、彼女が元気な顔で迎えてくれた。
まさか、こんなに早く先生がくるとは、という感じ。
「部屋を掃除してた」
と笑って教えてくれた。
「こんなに早く来ると思わなかった」
頭を下げて、あやまった。
ざぶとんは、すわらず、ずらして。
謝りに来たのだ。
そして、作戦を立てさせてください、というようなことを伝えた。
お母さんの気持ちと、クラスの子になにを伝えたいか、を教えてください、と言った。
「うちの娘も傷ついているが、わたしも傷ついた。わたしの両親、つまり祖父母も大きく傷ついている。クラスのいじめが、私たちの家族全員をひどく悲しませるものになっている」
まとめると、こういうようなことをクラス全員に伝えてほしい、ということであった。
約束し、本人にもそのことを必ず伝える、と言うと、ほほえんでくれた。
該当児童は、場面カンモクの困難を抱える子だ。
こういう子が、避けられているクラスの気風を許してしまってきた担任の落ち度。
これはなんとも言い訳のしようがない。
クラスにとって返し、わいわいと騒ぐクラスの児童に、低い声で伝えた。
○座りなさい。話をしっかり聞けるように、前を向きなさい
○ちょっとでも姿勢の悪い様子であれば、そのことを教えてあげます。その前に、自分で姿勢を直せると思う人は、直して御覧なさい
○大体いいのですが、まだ3人、姿勢が崩れている子がいます。その人が気付くのを待ちます
と言って、その子をじっと見ると、ふだんはクラスに変な空気を作っている子だが、こちらの気迫を感じたのか、おずおずと姿勢を直した。
そこであらためて、たっぷり間をあけながら、
(目は気迫で燃えるような瞳)
(にらまないが、真剣な顔つき)
今日は勉強をしません。
なぜか分かりますか。
算数よりも、国語よりも、他の何よりも大事なことがあなたたちの(わたしたちの)クラスには欠けています。それがなければまったく学校に来ている意味もないから、算数も国語もやりません。
ひどいことです。
許せない事です。
人間として学ばなければならない最低のことだ。
それをしない限りは学校でやることのほとんどは意味が無い。
と話しだした。
子どもたちは、なんだかいつもと雰囲気がちがうぞ、とかまえて座っている。
それでもつわものはいる。ひじをついてほおづえをつき、かったるそうに座る子。さらには、机の下から足を出し、完全にま横を向いて、「おしゃべり臨戦態勢」をとる子もいる。
ピシリと、
「足が出ている。なおしなさい」
と小さな声で言う。
クラスがしーんとなっている時の小声は、みょうに教室に響く。
それは、大声とはまたちがったキビシイ声に聞こえるのである。
そこで、連絡帳を取り出した。
このことは、事前に本人と親に承諾をとった。
この承諾がほしくて、朝の緊急家庭訪問を行ったわけで。
連絡帳を取り出し、
「今日、○○さんが休んでいます。なぜだか分りますか。来たくても来れないそうです。とっても心が傷ついて、学校へ来たくても来れなくなってしまったそうです」
きょとん、とする子もいる。
「ここに名前が書いてあります。○○さんと○○さんに、バカと言われたのがとてもくやしい。わたしはとても傷ついています、と。」
名前は言わない。
全体を見回す。
妙にひきつった顔をする子もいる。
「自分で気づいて、自分を変えていこう、としないと意味が無い。先生から名前を出しません。心当たりのある子は、自分から言いに来なさい。なにをしてしまったのか。なにが○○さんの心を傷つけてしまったのか・・・。
自分で言えるのなら、変わっていこうとする気持ちがわかる。
しかし、先生から叱られて、名指しで呼ばれて、仕方なく謝るのでは、どうしようもなくレベルの低い態度です。
先生は、今日の6時間目まで待ちます。それまでの時間に、いつでもいいから話をしに来なさい。」
自習する余裕時間と、締め切りの時間を伝えた。
その後、黒板に大きく「場面かん黙」と書いた。
彼女が、たたかっていること。
しゃべりたくても、しゃべることができないこと。
自分でもどうしていいか分からないこと。わざとでは決してないこと。
苦しいこと。毎朝、しゃべることができたらいいのに、と思いながら学校へ来ていることを伝えた。
「お母さんは、毎朝、いってらっしゃい、と○○さんを送り出す。そのときに、一言でもいい、テレビに出てくる子どものように、お友達となかよく大きな声でしゃべることができたらいいのに、と思いながら、いってらっしゃい、と言うそうです」
○○さんが、悪いですか。
クラスの全員が、首を横に振った。