叱らないでも いいですか

「叱らないで、子どもに伝える・通じ合う」 小学校教師、『新間草海』の本音トークです。

お母さんだって、傷つくときもあるんじゃない?

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道徳の資料は、ある新聞からの切り抜き。

病気で入院、手術し、久しぶりに帰宅した母さん。
一か月間ずっと、お母さんの帰りを待ちわびていた小4の男児
男の子は、少し経つと、お母さんのつくる料理が変わったことに気付く。
日によって、味噌汁の味が、濃くなったり、薄くなったりしている。
おかずの味付けも、変わっている。

このとき、あなたは・・・。

味噌汁をひとくち、口に入れた瞬間に思うこと。
そして、お母さんに何を言うか。

紙に書いてもらった。

A男「お母さん、少し、味噌汁、濃すぎない?」
B男「お母さん、どうして味が濃いの?」
C男「お母さん、これ、まずいよ」


発表させると、男の子がはりきって、上のような回答を発表してくれる。

C児が演技を加えて、お椀と箸を持ったようになり、落語家のように一口すすったあと、

「あ!これ、マズいよ!!」

と大声を出すと、クラス中がゲラゲラ笑った。

「そんなふうに言ったら、お母さん傷つくじゃん!」

たしなめるのは、もっぱら女子の発言に多い。

では、○○さんは、どう反応するの?と声をあげた女の子を指すと、

D女「お母さん、なんだか味がちがうよ?」
E女「お母さん、おいしいんだけど、前とは味が変わっているよね?」
F女「お母さん、大丈夫?前とは味が違うようだけど・・・」


いろいろ出てきた。

女の子たちの回答は、なんだかやわらかい。
そして、少し、配慮があるような感じ。

みんなの回答を見ながら、感想を出し合っていると、

A男くんの回答も、「少し」というあたりに、配慮があるので、いいと思う。
みんなの回答は、最後が疑問文でおわっていて、?マークがあるから、なんだか、お母さんに向けて、どうしたの?だいじょうぶ?というように、気遣う感じがあるから、いい。

というような声が出てくる。

そして、同時に、

「これ、まずいよ!」

と大声を出してゲラゲラ笑われた、C児の意見はどうなんだ、と。
そんなダイレクトに、率直に言うと、お母さんがかわいそうではないか、と。

C児がだんだんと、困った顔になる。

「いや、だいじょうぶだと思うんだけどなあ・・・」

C児は、ふだんから口が悪い。
言葉がキツい。
ここぞ、とばかりに、女子ばかりか、男子までが、

「そうだよ、まずい、なんて言っちゃったらダメだよ」

と、指摘する空気になった。

こういうこと、多い。
気に食わない反応をする人を見ると、叩きたくなる。


C児に、どうしてそれでも大丈夫だと思うの?と聞くと、


「いや、お母さんなんだから・・・」


とのこと。

つまり、お母さんになら、絶大の信頼関係があるんだから、ぼくはもう、何を言ったって、大丈夫だ、というのである。

「いや、だめでしょ!お母さんだって、傷つくときもあるんだから」

という意見と、

「C君が、C君のお母さんに言うんだから、それならいいかもしれない」


という意見と、両方出てきた。

そこで、

「C君、もしも、友達の家に遊びに行って、そこで例えばクッキーかなにか、焼いてもらったのを食べさせてもらったときに、まずい!と思って、すぐに、これマズイですね、と声に出して言うかい?」

と確認すると、

「そんなこと、ふつう、言わないっしょ!!」

とC君が慌てて否定したため、クラスの女の子たちも、幾分納得したような感じになった。


次に、お母さんの事情が分かる文を読む。

「実はね、手術をしてから味と匂いが全くないの。だから、料理の味付けがてきとうになっちゃって・・・」お母さんは深いため息をついた。そう言われてみると最近のお母さんはあまり食事をしなくなった。作るおかずも特別な味付けが必要ないものばかりだ。
しだいにお母さんの手作りの料理が姿を消していった。かわりに近くのスーパーのお惣菜が食卓に並ぶようになった。

そこで、あなたはお母さんに、どんなふうに声をかけますか。

またしばらく考えて、

A男「お母さん、味が少しくらい変わっても、ぼくはお母さんの作ってくれる料理がいいんだよ」
B男「お母さん、ぼくはお母さんの作ってれる料理なら何でも最高の味なんだよ」


なんとも、泣けるようなことを言う。

ところが、みんなが注目したC男は、こう言った。






C男「お母さん、もう一度、手術したら?」




またもや、女子からものすごいブーイング!


「なんてこというの!そんなことを言ったら、お母さん、傷つくでしょーがッ!!」

叩きたくなるんだねぇ。

C男は相変わらず、別に、思ったことを言っただけで、何が悪い、という感じ。


C男「オレのお母さんは、何言っても、大丈夫なんだって。だから、こんなこと、ぜったい他人には言わないよ。お母さんなんだから、言えるんだよ。友達とか、友達のお母さんとかにだったら、言うわけないよ、こんなセリフ。・・・そのくらいのこと、分かるから大丈夫だってっ!!」

女子からの疑いの視線、いぶかしむような様子に幾分動揺しながら、C男は自分の意見を貫こうとする。

新聞記事の切り抜きでは、作文の作者はどう書いていたかと言うと、

そんな状況を見てぼくは一つの提案を思いついた。ぼくは料理が出来ないけれどお母さんの味は覚えている。だから、料理はお母さんがして味付けはぼくがする。共同で料理を作ることを思いついた。
「ぼくが味付けをするから、一緒に料理を作ろうよ。」

家族が好きなぶりの照り焼きをつくる。
それは、味付けが難しいのでお母さんもつくる意欲を失っていた料理だった。
男の子の提案に最初は驚いていたが、お母さんは息子とふたりで家族のために、ぶりの照り焼きをつくる。
無事に、大成功。
「これだよ、この味なら、いけるよ!」
男の子の歓声に、お母さんはニッコリ。



まとめ。

子どもたちから、ぜひ友達や家族にかけたい言葉として、ふたつ出た。

1) (相手の様子がふだんとちがっていたときに)だいじょうぶ?
2) ぼくに何か、手伝えることがある?
 

まずは、何を言っても大丈夫、と思えるお互いの間柄(あいだがら)がいいね。一番、安心。落ち着く。

すべては、それからのこと。

ソーシャルスキル学習は、根本を見失うと、儀礼と方法とマニュアルの方向だけになる。

木もれ陽
堂々と、何も恥じず、何も恐れず、伸びたい方へ伸ばす。